バラナシでキャタとの再会を果たし、気ままな2日間を過ごした。
帰国日はもうすぐそこまで来ている。
帰らなくては。
僕らは夜行でコルカタへ向かい、1泊もすることなく夜の飛行機でインドを飛び立つ予定になっている。
僕らは宿をチェックアウトし、3人で昼食を食べに街へ出た。
チキンカレーをチャパティに絡めながら口へ運ぶ。
これがバラナシ最後の食事。大満足だった。
食事を済ませ、宿へと戻る。
僕とアカはチェックアウトを済ませているが、キャタはバラナシに残る。
キャタの部屋や屋上でのんびりしているとあっという間に列車の時刻が近づいていた。
次はスペインで会おう!という曖昧すぎる約束に、アンダルシアでね!という曖昧な返しをし、僕らは手を振った。
キャタは3月まで気ままに旅を続ける。
僕とアカは、あと3日もすれば日本だ。僕らはこうして別々の道を行き、またどこかで交わる。
それが日本かもしれないし、スペインかもしれない。
何にせよ、楽しみだ。
僕らは重いバックパックを担ぎ、曲がりくねったバラナシの道を進んだ。
オートリキシャーを拾う為に、交差点の方まで歩かなくてはならない。
吹き出す汗をストールで拭いながら、人混みを掻き分け歩いた。
交差点まで出ると、リキーシャーワーラーが一斉に声を掛けてくる。
その中のひとりに声を掛け、すぐに値段交渉はまとまった。
荷物を詰め込み、オートリキシャーの中で発車するのを待つ。
しかし、なかなか出発してくれない。
おっちゃん、列車の時間があるから急いでくれ、と声を掛けたもののなかなか車は出ない。
時間がかかるなら他のリキシャーに乗り換えるぞ、と言ってみたところ、おっちゃんは申し訳なさそうに微笑んでからササっとリキシャに乗り込んだ。
エンジンキーを回し、オートリキシャはゆっくりと走り出す。
バイクや車すれすれのところを上手い具合に発車した。
これで列車に間に合うと胸を撫で下ろしたのも束の間、目の前にどうしようもないような光景が広がっている。
車線を大きく無視した車やリキシャの車両で道はごちゃごちゃに塞がっている。
コトバにするなら「大渋滞」だが、馬も牛も入り乱れたこの車線を「渋滞」というコトバで現せるのかと言ったら微妙なところだ。
1cmずつしかリキシャが進まないような時間が続き、僕らの列車が発車する時刻も迫ってきていた。
最初こそ焦っていたが、余裕をみなかった僕らが悪いということに気付き、「列車に間に合ったらラッキー」と考えることにした。
そう考えると事は上手く進むようで、渋滞も少しずつ流れ出し、列車出発時刻ギリギリに僕らは駅の前に到着していた。
おっちゃんに感謝を伝え、荷物を担ぐと僕らはホームに向かって走る。
インドで列車が遅れることは日常茶飯事だが、もちろん遅れないこともある。
せっかく駅まで間に合ったのだ。乗らなければ。
ホームに辿り着くと、列車の姿はない。
行ってしまったのか、まだ到着すらしていないのか。
駅員に確認すると、まだ来ていないと言う。
僕らは胸を撫で下ろし、背中部分が汗でびっしょりになったバックパックをホームに降ろした。
スプライトを売店で買い、ふたりで一気に飲み干した。
ひとまず、列車には間に合った。
コルカタへ行ける。
予定時刻より10分ほど遅れて列車はホームに入ってきた。
僕は列車に乗り込むとすぐに最上段の自分のシートへよじ登り、バックパックを枕にしながら読書に耽ることにした。
列車が走り出してしばらく経ち、本を閉じ眠りに就こうとしていた。
ちょうどそのとき列車が駅に停車したのだが、そのときどこかのインド人が大量の子蠅と共に乗車してきた。
すっかり暗くなった車内の蛍光灯に子蠅が集まってくる。
別にそれだけなら大して問題はないのだが、蛍光灯の下には扇風機がこちらを向いて猛スピードで回転している。
つまり、蛍光灯に集まった無数の子蠅は、扇風機に吸い込まれそこから勢い良く吐き出される。
最上段に寝ている僕やアカの顔や足目掛けて子蠅が大量に降り注いでくる。
最悪だ。睡眠どころの問題ではない。
お腹にかけていた毛布を足から頭まで覆い、子蠅爆弾のことを考えないようにじっと耐え凌ぐ辛い時間が続いた。
見兼ねたインド人が下でスイッチを切ってくれたおかげで、大量の子蠅たちは新たな光を求め飛んで行ったようだった。
毛布を払い直し、嫌な汗をかいた全身に風を浴びる為に一度シートから降りることにした。
インドの場合、列車の乗降口のところにドアなどはない。
ないというか、あるけど閉めないのだ。
そから吹き込んでくる風にしばらく当たりながら、旅の終わりが迫ってきていることを再確認した。
この列車がコルカタに着いて、宿でシャワーを浴びたら、もう空港に向かわなくてはならない。
横にいたインド人のおっちゃんと何もコトバを交わすことなく一緒に煙草に火を付け、それを同時に吸い終わるとお互い反対の車両の方へと戻って行った。
再びシートへよじ登り、おやすみと言ってすぐに眠りに落ちた。
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