2012年10月11日木曜日

コルカタという街


固いシートで二度寝三度寝と繰り返し、気が付くと僕らはコルカタにいた。
到着時刻を1時間以上過ぎていた。



僕はまたコルカタへとやってきたのだ。




初めて来たのは3年前。




毎日滝のように降り続ける雨の中、宿でひたすら旅で見出した価値観を吐き出していた。
その相手が森川という男で、その後東京で【FURUSATO】という団体の立ち上げを一緒にやることになる。
まずそのことが、僕にとってコルカタが想い出深い街である理由のひとつだ。








そしてその1年半後、予期せぬ形で再びコルカタを訪れることになった。
2011年3月19日、インド最大の祭典ホーリー祭の日に僕はコルカタにいた。





ホーリーとは、色水や色粉を掛け合うヒンドゥー教のお祭りのこと。
ホーリーの日は街中で色水や色粉を掛け合い、人も街も全てがカラフルに染まる。
カースト制度が根強く残るインドでも、その日ばかりは身分階級がなくなる。
無礼講が許される唯一の日。そんなお祭りだ。




その前日、僕は1年半前と同じ宿の同じベッドで、ひとりで色あせてしまった旅の終わりを感じていた。




そこからさらに遡ること7日、日本を未曾有の恐怖が襲った3月11日。
ネパールの宿の屋上で昼寝をしていた僕は、のんびりとネットカフェに行く途中、震災のことを知った。




気が動転した。
そもそもネットカフェに行ったのも、母ちゃんに誕生日メッセージをメールで送ろうと思ったからだった。
3月11日は母ちゃんの誕生日なのだ。
そんな母ちゃんは東京にひとり、父ちゃんは単身赴任先の茨城、親戚はみんな仙台にいる。



そのとき一緒にいた仲間はふたりとも福島の子たちだった。
それまで楽しかった旅は一瞬にして色あせた。





帰る場所があるからこそ、旅が出来る。




僕にはもう旅を続けるという選択肢などなかった。





日本に帰るという決断をするまでそんなに時間は必要なかった。
4月8日帰国の航空券を捨て、新しく航空券のチケットを買い、ひとまずインドへ戻ることにした。




日本に戻れるのが最短で20日ということになり、僕は3月19日のホーリーを飛行機の経由地であるコルカタで迎えることとなった。




もともとこの旅はホーリーが目的だった。
その為にインドに来た。
それくらいこのお祭りが僕には魅力的に見えた。



けれど、もう楽しむ気持ちなんて僕は持ち合わせていない。
それでも構わずホーリーは日程通りに開催される。
ホーリーを避けて帰国することはもう出来ない。



僕は色あせた想いのまま当日を迎えることとなった。




朝、目が覚めて窓から外を見る。
いつもと変わらない街並。
なんだ、ホーリーと言えども、意外に普通なんだな。
一瞬なんだかほっとしたような気持ちがして、歯を磨き朝ご飯を調達しに街へと出た。




しかし、窓から感じた安堵感はすぐに裏切られることになる。




食料を求め街の中心まで歩くと、目の前に急に色だらけの光景が広がった。
色まみれになった街並を色まみれの人が走り回り、踊り回っている。
その光景に、僕の色あせた想いは一瞬にして色づき始めた。






色まみれの子供たちが僕に向かって水鉄砲を撃ってくる。
もちろん色付きの特製水鉄砲だ。





子供たちは僕を新たな標的とすると、あちこちから人数を増やし攻撃してくる。
四方八方から攻めてくる子供たちから逃げようとすると、紫に染まったインド人のおっちゃんから後ろから羽交い締めをくらった。
その横にいたインド人がバケツを持ち上げると、僕の頭にピンク色の水が滝のように降り掛かる。
それを見ていた水鉄砲部隊の子供たちに、今度は水風船部隊も参戦して一斉攻撃を仕掛けてくる。
色あせた想いで街に出たのに、色だらけの街に惹き込まれ、僕はもう笑うしかなかった。






それは誰がどう見ても平和そのもので、正真正銘の“平和”がそこにはあった。
僕は夢中でシャッターを切り、カメラを壊されまいと必死で逃げ回った。
顔も体も、心までもがたくさんの色に染まり、たくさんの色が溢れた。






洗っても洗っても色は落ちることが無く、色まみれのまま飛行機へと乗り込んだ。
色まみれの汚い顔で、色とりどりのハッピーパワーを日本へと持ち帰った。





帰国後、僕は自転車に股がり、被災地へと向かった。
コルカタの地でもらった思いがけない元気を、今度は僕がみんなへ届ける番だ。
そう誓い、僕は自転車を走らせた。





そんな想いや経験を経て、いまフタタビ、ミタビ、この地に立っている。
今回はここから日本へ帰るだけだが、それでも何かきっとオモシロイことがある。
そんな期待を胸に、僕は列車から飛び降りた。



今回のコルカタはどんな色に僕を染めてくれるのだろうか



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