2012年12月29日土曜日

ラプンツェルの旅〜ロイクラトンの夜〜


僕らは夜空がオレンジに埋め尽くされるという圧倒的感動体験を共有し、次の日からは思い思いに次の街へと旅立って行く。


リョーはインドへ向かう為にバンコクへ。
伊東はパンガン島へ。
しおりさんたちはパーイへ。
ユースケとエリは日本へ戻るために、バンコクへ。
僕とアカとサナは、みんなを見送ってからパーイへ。
母は、そんな全員を見送ったあと日本へ。



コームロイを見るという目的のために集まり、
またそれぞれの旅を続けて行く。


僕らはパーイで少し遊んだあと、またチェンマイへと戻ってくる。
『チェンマイ・イーペン祭』が3日後にあるので、それに参加するためだ。
クラトン(灯篭)を川に流す『ロイクラトン』と呼ばれるお祭りが全国各地で行われるのだが、チェンマイでは『イーペン祭』と呼ばれている。



僕らが集合して、空にコームロイを放ったお祭りは『イーペン・サンサーイ祭』と呼ばれるもので、僕らは幸運にも滞在中にふたつものお祭りに参加できるのだ。


このお祭りの違いが日本人にはあまり浸透していないらしく、認識違いが多い。
過去に祭りに訪れた旅人のブログなどを辿ると、たいぶややこしいことになっている。全てをコームロイ祭りと括ってしまっている人も多いようだ。


僕らはそのイーペン祭に向けて、再びチェンマイへと戻ってきた。
3時間ほどバスに揺られてチェンマイに着いたのは、空がオレンジ色に染まり始めたころだった。
僕らは自転車を借り、祭りが最も賑わうというピン川周辺を目指し、ペダルを漕ぎ始めた。


車道から溢れんばかりの車の間を縫うように走り続けると、パレードのような行列にぶち当たった。
この辺りかな、と僕らは自転車を止め、そこからは歩いて行くことに。



パレードが行われている通りに入ると、現地民や世界各国からの観光客で溢れかえっている。
ミスチェンマイだか何だか分からないが、綺麗な女の人たちが『Loy Krathong〜Yi-Peng Festival〜』と書かれた横断幕を持って笑顔で写真撮影に応えている。





数えきれないほどのシャッター音に対し、毎度毎度足を止め、美しい笑みをカメラに向けている。




ゆっくり進むパレードに僕らもシャッターを切りながら、前へ前へと進んでいくと、その先ではコームロイが不規則に空へと放たれていた。



現地民や観光客が、各々で購入したコームロイに火を灯し、膨らんだコームロイが次々に空へと放たれている。



コームロイを一斉に空に放つイーペン・サンサーイ祭とはまた違い、不規則に放たれるコームロイはゆっくりと空をオレンジに彩っていく。


さらに奥へ奥へと進むと、オレンジの数は一層多くなる。
屋台などの出店の数も増え始め、どうやら目的地のピン川周辺のようだ。



川に架かる橋の上は、多くの人で賑わっていた。
ロケット花火のようなものを空に放り投げたり、コームロイに火を灯しながら記念撮影をしたり。



橋の上は眩いオレンジの灯りと真っ白な閃光、爆発音と白い煙、それに伴い歓声や笑い声が溢れていた。
橋の上から川を見下ろすと、灯籠流しも行われている。
灯籠は、大小様々な土台の上に花が色とりどりにあしらわれている。 
川をオレンジの灯りがゆっくりと星のように流れている。



僕らは、コームロイをあげている現地の学生と一緒に写真を撮ったり、花火を少し分けてもらったりしながら、のんびりとした時間を過ごしていた。



せっかくだから僕らもコームロイをあげようという話になり、売っている場所を求め彷徨っていると、ドラえもんの形をしたコームロイを見つけた。
なんだか嬉しくなった僕は、通常のコームロイの5倍近くもする値段だったが、迷うことなくお金を手渡していた。



スキップに近い軽い足取りで、ふたりが待つ場所まで戻り、共に火を灯し空へと放った。
どうやらドラえもんのコームロイは珍しかったようで、僕らはハリウッドスターなのではないかというほどのカメラを向けられた。






僕らの手から放たれたドラえもんは、ゆっくりと360度見渡しながら夜空へと消えていった。


これで、僕らは味を占めた。
楽しい。もう一回やろう。



今度は、ひとりひとつずつ購入することにした。 
先ほどは気づかなかったが、ドラえもんにはカラーバリエーションがあるらしい。
青、ピンク、オレンジの3色を購入し、僕らは橋の上へと戻った。



記念写真を残すべく、各々のカメラを周りの人に預け、火を灯す。 
すると、先ほどの何倍もの人集りができ始めた。


僕らを取り囲むように人の数は増えて行き、ドラえもんが膨らんでいくに連れ、シャッターの数も増していく。
スターの気分を堪能しながら、たくさんのカメラに自然と笑顔になってしまう。


こっちを向いてくれ、とか、このカメラでも撮らせてくれ、という要望に応えている間に、ドラえもんは膨らむ余地を無くし、もうすでにパンパンだ。


熱気がドラえもん内から溢れ、持っている僕らも熱くて堪らない。

我慢の限界となり、せーので空に放つ。



パンパンに膨れ上がったドラえもんは、手が離れた瞬間、猛スピードで空へと駆け上って行った。


ドラえもんが空へと消えてしまうと、僕らを取り囲んでいたギャラリーもゆっくりと散っていく。


中には、「そのドラえもんはどこで買ったんだ!」とか、「ほら見ろ!こんなに上手く撮れてるぞ」と声をかけてくる人もいる。
その場に居合わせたというだけで、ほんのひとときの会話がうまれる。
幸せなことだ。



満足した僕らは次に、灯籠流しをするために川辺までおりることにした。
川の周辺は灯籠流しの人で、所狭しと人が行き来している。
その合間で様々な灯篭が売られている。
値段も様々で、大きさやあしらわれている花の量などによって値段が前後するようだった。


ドラえもんで奮発してしまった僕らは、一番シンプルで一番小さな灯篭を選んだ。




ゆっくりと人と人との間を進み、川へと降りて行く。
なんとか、3人並んで灯篭を流せるスペースを見つけ、風からライターの火を守りながら、順番に灯りを灯した。




川辺は少し川から高さがあり、綺麗に川に流すのはなかなか難しい。
川に落ちるか落ちないかのギリギリまで体を乗り出し、最後は軽く放り出すように灯篭を手放す。





バシャっという音と共に大きく水面を揺らし、その後ゆっくりと態勢を整えながら流れて行く。





僕らはひとりひとつ灯篭を買ったわけだが、アカの灯篭はロウソクの灯りの方から水面に着地し、一瞬にして灯篭という称号を失ったカタマリになっていた。大失敗。灯篭に託した祈りも虚しく、ただ笑うしかない状況だった。



僕らが川からメインの通りに戻っても相変わらず賑わいは続いている。
空に放たれるコームロイの数も相変わらずだ。



僕らは屋台で空腹を満たしながら自転車のところへと戻った。



そのあとも賑わうチェンマイの街を自転車で周遊しつつ、屋台で別腹を満たしたり、バーに寄ってビールで乾杯したり。
祭りの夜を満喫しながら宿へゆっくりと戻った。



宿へ戻ってもまだピン川周辺は賑わっているようで、遠い夜空には小さなオレンジの灯りがあたたかく寄り添い合っていた。

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